アンソニーは腕を広げて、百合亜へと走る。
百「秘伝!扇飛び蹴り────────ッッ!!」
…また…秘伝;;
中居・星弥・百合亜の親父の組長意外が思わず固まる中、百合亜は名の通りに足を綺麗に扇状に回しながら、アンソニーの右耳に踵で蹴飛ばした。
ーードンッ
アンソニーが地面に倒れる。
星「キレさせたね」
中「アンソニーを侮るな」
別にアンソニーが弱いとは思ってなかったが、一瞬、勝利だと感じた俺や啓太たちに、星弥と中居が釘を刺して来た。
俺が固唾を飲んで、中居から百合亜とアンソニーに目を向ける。
すると、アンソニーは微かに動き、百合亜の足首を引っ張り、地面に倒れ込ませた。
太「──!」
俺は百合亜の元へ行こうとする。
中「まだ、行くな…」
そんな俺を、中居が腕を掴んで阻止した。
中「百合亜は…負けないからだ」
中居は目にうっすらと涙を浮かべながら、百合亜を見て居る。
しかし…その間に百合亜はアンソニーに数発、殴られていた。
俺がどうしたらわからず居ると、俺の横を、ビュンッと、何かが通り過ぎた。
…な、何だ?;;
よく目を凝らせば、親父がジャージで現れた。
髪の毛はグシャグシャで、寝起きだとわかる。
一「寝坊したら、お前は俺の義娘に何してんだ──ッ!!」
ーーバキーッ
親父の全力疾走したのは、助走と百合亜を助ける為だったらしい。
百合亜がアンソニーと形勢を逆転し、殴ろうとした瞬間に、足からスライディングし、変わった蹴りをしたんだ。
私がアンソニーに跨がり、殴ろうとした瞬間、長い足が、見えた。
一「寝坊したら、お前は俺の義娘に何してんだ──ッ!!」
太一の父親だった。
一「百合亜、大丈夫かっ!?
頬、切られてるし、寝坊して悪かったなー…」
百「や、あの…その…;;」
太一の父親は、私を抱き締めて、殴られていた切れた頬を撫でて来た。
けど、すぐに立ち上がると、私に「下がれ」と低い声で告げた。
Tシャツにジャージと、グシャグシャな髪型…どうしてそこまで?
一「俺な?太一の母親と乗り気じゃなかったお見合いで知り合った。今、尋常じゃない位に愛してる。でも、その頃はまだ、忘れられない人が居た…」
百「それって……」
一「百合亜と一緒。亡くした。
俺が強くてイケメンでモテて、挙げ句の果てに、周りの女に優しくしてて、自信がなくなったんだろうな?
…飛び降りたよ。俺のマンションのベランダから」
…う、そ…でしょ…。
泣きそうな私に優しく微笑み、気絶したアンソニーを抱えあげ、起こそうと体を揺らし始めた。
そんな太一の父親を、私の父親が止めた。
合「もう、良いだろう」
一「じゃあ、認めるんだな?
太一も百合亜も、傷付けるなら、俺は力ずくでも、お前の組を潰す」
アンソニーを掴んだままの太一の父親は、私の父親を睨み上げる。
父親は怯んでは居ないものの、曖昧な顔。
?「親父!」
そんな時、太一たちの居る方から、聞き覚えのある声が聞こえた。
3人で振り返ると、そこには、兄貴の留季吾ールキアーが居た。
小走りで近付いて来て、父親の肩を掴む。
合「何しに来たんだ。
お前はもう…」
留「百合亜を自由にしてやってくれ!」
百「兄貴…?」
私は兄貴の腕に触れながら、顔を覗き込む。
兄貴は父親から目を逸らさない。
留「俺…逃げてた。本当は撃たれたからってビビる事はない。
俺は…侑に負けたのが悔しかっただけなんだよ」
合「どういう事だ」
父親の問いかけに、兄貴はジャケットの内ポケットから、白い紙を取り出す。
話を聞きに来たのか、太一たちも来る。
留「留季吾へ。
留季吾の手元にこの手紙が届いたら、俺は死んだ証拠。お前に一つだけ言えない事があった。
あん時は、お前が組長になったら、神埼組が一番になるなんて言って悪かった。俺はただ、神埼組がトップになったら、無条件で百合亜が手に入ると意気がってた。
でも、やっぱりお前に敵わない。ずっと背中を追って来たお前に勝てる筈はない。
腕っぷしだけじゃ、全国一の組長になれないってわかるだろ?お前みたいな切れ者じゃないと。
だから頑張って、天下納めてみろよ。俺はずっと、留季吾の味方だし、見守ってるから。
──────侑
これで、わかってくれるか?
俺は、逃げた。侑からも、現実からも…。
でも俺、一からやり直して、今度こそ組を継ぐ。だから、だから百合亜を……」
合「それは…出来ない」
兄貴のお陰で、解放されると信じた。
でも……父親は顔を左右に振り、アンソニーを見た。
アンソニーは目を覚ましてたらしく、胡座をかきながら、私たちを見てた。
ア「ワタシハ、クミヨリ、クミチョウヨリ、ユリアヲスキニナリマシタ」
太一留「何だと!!」
ア「ダカラユリア!タイチトワカレテクダサイ。デナイトボクハ、タイチヲコロシマス」
…“太一を殺す”…?
百星「──冗談じゃねぇぞ…」
中「せ、星弥君?;;」