その日の5時間目はロングホームルームだった。

先生が2週間後の林間学校の説明を始めた。

この時間はその話し合いをするらしい。

話し合いにはならないだろうな。

心の声が聞こえたかのように、後ろで恵美香と祥子が話し始めた。

はあ。この二人が話し出したら止まらない。

「懐かしいね〜、林間学校。」

「中1のときにやったよね〜。」

その会話に周りの女子も加わっていく。

「キャンプファイヤーでさ〜、、、」

「男子がさ〜、、、」

「あれはお前らが悪いだろ」

しまいには男子も話し出した。

はあ。うるさいな。

先生は要件だけ言って職員室に行ってしまった。

私は黙って下を向いた。

ここで「詩織はどうだった?」と聞かれないのが救いだ。

聞かれても応えられない。

覚えていないのだ。

中1のことは覚えていない。

あの1年間のことは何ひとつ思い出せない。


中1の記憶があれば、このおしゃべりに入っていただろうか。

中1の記憶があれば、この人たちと上手くやれただろうか。


私に記憶がないことを知ったときの

恵美香たちの顔を思い出した。

哀れみと見下しが混じった、最悪なモノを見る顔。

あれも、中2の始業式の日だった。