僕は信じている。だから、君も諦めないでほしい。
 野球のボールを手に取り、ギュッと唇を噛み締め、頬をつたる涙に情ねぇな、自分。とひたすら思った。
 あと一粒の涙が出れば、願いが叶うのか?あと一言の勇気で俺を救う力を持てるのだろうか。そんな事があったらいいのに、と信じた。あの日は。
 そのときが来る。俺はそれを信じている。何度でも立ち上がって、ボールに願いを込め、俺を照らす夏の夕日をボールで隠した。両手を挙げ、次くじけない自分に変わりたいから。今変わる。それだけを思ってやることを。泣きたいけど、弱音を吐く野球選手なんて嫌いだろう?君は。なく俺を見て、慰めることなんてとても難しいだろう?
 「上野くん?泣いてるの?」
 よくこの姿を見てそんな気楽なことを言えるよな、君は。と言おうとした。でも、それだと嫌われてしまうかもしれない。怒りを込めたこの気持ちを胸の中に綴じ込み、封じ込んだ。君に出会ってから野球への気持ちも少しずつ変化して行った。
 伸ばして、上へ。いつも素直になれず、自身を持てなくて、そんな自分が情けなくて練習を投げ出した。グラウンドの裏を、人目を気にして歩いた。野球部が、みんな練習してる所をサボっているところを見られたらみっともないし、野球心にも傷がつく。
 あの空は、今でも明るく。あの日を思い出す。日本一の野球選手になる、それをいつでも思い出す。俺の夢。ギュッとボールを握り、一球一球素早く投げた。何回かやったところ、110km出すことに成功。これは、おれの良心を変えてゆく出来事でもあった。泣き、泣かせられ、時に揺るぎなく揺れる心。嫌だと思って投げ出したいことなんて沢山ある。でも、野球だけは手放せない。俺は固く決心した。2度と失うものなんて無いようにする、と。
 このことを願い、あの頃は頑張った。だから、今の自分がいるのだと。あの空に向かって勇気を送った俺は、今こんなんになっていること。昔の俺は覚えているだろう。簡単じゃないし、なにごとにも願いを込めるべき。
 あと一粒の涙で願いが叶う?だからそれを願えばいい。そしたら…意外と変わるものだと。ボールを吹いていた俺は、校舎の裏を歩き、倉庫に向かった。
 誰かとぶつかり合うこともやめていた。心のどこかでずっと遠ざけていた。