……なにって…それは……だって。

明日斗に気に入ってもらいたい、好きになってもらいたい。

でもそんなの、この状況で本人には言えない。

「ホントに……そんなんじゃないの」

「まあ、いいけどな」

私の声をかき消すようにそう言うと、明日斗は座っていた机から立ち上がった。

「用出来たから先行くわ」

「…っ……」

呼び止められなかった。

すぐ脇を抜けていく明日斗の綺麗な横顔が、私をまるで見ていなくて。

……多分明日斗は最初から一緒に帰る気なんかなかったんだ。

私に、龍との事が聞きたかっただけなんだ。

胸が押し潰されたように苦しくなって、私は思わず顔を歪めた。

なんで?なんでこんな事になっちゃうの?

私は、私はただ明日斗が好きなだけなのに。

誰もいなくなった教室の風景が徐々に滲んでいく。

ポタリポタリと落ちる涙に余計気分が下がる。

その時廊下から、誰かの足音が近づいて来た。

……やだ。もし見られたら。

私は手早く涙を拭くと、俯いたまま歩き出した。