わたしのことを好きになればいいのに。
わたしのものになればいいのに。

那月さんのことを考えてるりっくんを想像すると、わたしの心の中を汚い感情ばかりが埋め尽くす。
わたしはりっくんが好きなのかもしれない。
いや、もしかしたら違うのかもしれないけど、わたしの中では好きだと思っている。

わたしに興味がないところとか、冷たくて人を好きになったりしなさそうなのに那月さんみたいな巨乳に引っかかる単純さとか、絶対人殺ししたことあるだろうと思わせるような目とか。

一体そんなののどこがいいの?って思うだろうけど、確かな理由はひとつだけある。

それは、彼の与えられている好意。

考えれば考える程不純で汚い理由だけれど、手に入らなければ入らない程、彼の価値が増してわたしの欲求を満たそうとする。
彼に向けられる好意、視線、そのすべてが欲しくてたまらないんだ。


厨房の奥で、滅多に見せない笑顔を那月さんに向けているりっくんは、やっぱりどこか曇っていて現実味のない感覚がした。

歪んでるなあ、なんて思うものの、後悔すらできないくらいにわたしは真っ直ぐにしか生きられなくなった。
純粋な頃なんてあったのかなって思うほど、気づけばわたしは“今”のわたしになっていた。
時間が戻せないのと同じで、人は一度そうなってしまえば二度と後戻りできない。
戻りたいと思えば思うほど、夢を見ているような、そんな感覚に陥ってしまうんだ。

りっくんは手に入らない。
成海さんがわたしのことを少しでもかわいいって思ってくれて、それをりっくんに惚気てくれたりでもしたら、少しはわたしのことを見てくれるのかもしれない。
なんてことを考えながら、チラッとなんとなく横目で成海さんを探す。ーーーと、

「あんた、帰んないの?」

「っっっうわあっ?!!!!」
「あーうるさい。騒ぐな喋るな息すんな」
えっいやいや息はさせてくださいよ、なんてツッコミもまるで口からでてこなかった。

ーーーびっっ…くりした…。
さっきまで厨房に居たはずの成海さんは、いつの間にかわたしの背後に立っていた。
なんだのこの人、もしかしたらほんとに猫なんじゃないか。