ひいいぃぃと心の中で悲鳴を上げながら、成実さんから逃れるべく厨房へと向かう。

相変わらず怖い人だ。
殴られた頭をつい無意識に触ってしまう。

くそう。ここのお店アクセサリー禁止なのに、なんでそんなに指輪つけてるんだ。
そんな手で女子高生殴るなんて、大人気ないにもほどがある。

チラリと成実さんの方に目をやると、再び目があってしまって心臓が飛び上がる。
集中集中集中。
そう言い聞かせながら、なるべくミスをしないように、というか成実さんのゲンコツを食らわないように仕事に没頭した。


成実白。
白と書いてハクと読む彼の名前は、正直似合ってないなと思った。

時々みる彼の私服は、必ずと言っていいほど全身黒ずくめだし、髪だって大学生にしては珍しい黒髪だ。それに加えて、腹黒い成実さんの性格は、どう考えても白くない。
指輪もピアスなどのアクセサリーも数えきれないくらいつけていて、彼の体が揺れるたびに微かに音がする。
そんな彼の唯一白いところを言えば、肌くらいだと思う。


「な、成実さんっ、」
「ん?」
「た、大変聞きにくいんですが、」
「またなんかミスしたの」
「ぎゃあっ、い、いはいいはいいはい!!」

なんとも間抜けな声をあげたのは、紛れもなく成実さんに頰を摘まれたわたしだった。
伝票の見方がわからなかったから聞こうとしただけなのに、この仕打ちはひどい。
指輪と指輪が皮膚をこすって、ほんとに痛い。
一回くらいやり返してもバチは当たらないんじゃないかな、なんて考えながら成実さんの指導を受けていた。