次の日、無事に仕事を終えて、どこで食事しようか歩きながら考えていた。
 信号を渡ろうと足を一歩踏み出したとき、名前を呼ばれた。
 名前を呼んだのはいるはずない兼吾だ。

「どうして? 友達と約束していたんじゃ・・・・・・」
「会ってきた」

 実は友達が用事を早く終えて、昼食を一緒に食べたようだ。
 芽来も今日はいつもより遅い昼食だった。
 二人で歩いていると、ファッションビルが見えてきた。

「兼吾、あそこのビル、入ったことある?」
「何度かある」

 ファッションビルの前を通ったことがあるものの、中に入ったことは一度もない。

「せっかくだし、入ろう」

 中に入ると、高級感があり、入って大丈夫だろうかと少し不安になっていると頬をつままれた。

「何するの!?」
「ふっ、変な顔・・・・・・」

 やめるように言って、彼の手を払い落とした。
 歩き続けていると、いつの間にか隣を歩いている兼吾が手を繋いできた。

「今、思い出したんだけどさ・・・・・・」
「何?」
「このビルの五階に芽来が好きそうな店、あるんだ」

 背けていた顔を兼吾に向けると、にっこりと微笑んでいる。

「行きたい?」
「行きたい」

 もう少しだけ他の店内を歩いて、その後に夕食を食べることにした。
 機嫌が直った直後、スマートフォンの音が鳴り響いて、その場で足を止めた。

「電話、鳴っている・・・・・・」

 兼吾に言われても、電話相手が星汰なので、出る気になれずにいると音が止んだ。

「あのさ・・・・・・」

 声に顔を上げると、兼吾が怪訝そうに見ている。

「・・・・・・最近、何かあったよな?」

 兼吾は芽来の様子がおかしいと思っている。
 これ以上一人で考えていても何も解決しないと思い、兼吾に話すことにした。