顔を見上げる。慧斗は笑っている。

「そんなこと、ない」

「そう?」

「だってわたしは、」

人間ではないと知っていたけれど、怖いとは思わない。

「わたしは、慧斗がどこにいたって分かる。一人で居ようと人混みの中だろうと」

もうそれはずっと前からだ。

「俺もだよ」

少し驚いた顔しながら、慧斗は返事をする。何か考えるように襟足に触れてから。

「それって反則じゃない?」

「え」

「美衣ちゃんは俺から離れたいの? それとも俺に近づきたいの?」

わたしがさっき口にしたのは、そのどちらでもない。