顔を上げると、頬をほんのり赤く染めた彼がいた。


「ありがとう。」


ただ、そう言うのが精一杯だった。


手のひらにのせられた彼のボタンは、少し温かくて、今の今まで、握りしめていたのかな、と思った。


気づくと、亜咲はもう靴を履いていて、早く早く!とせかしていた。


はいはい、今行きますよ!と、おどけつつも、私の口角は、無意識にゆるんでしまう。


校庭には、後輩と先生たちが、私たちが歩く道を作ってくれていた。


みんな、後輩に声をかけたり、先生と話したりしながら、道を通って行く。


なのに私の目線は、彼に向く。