「こんなに目立つところにこないでください」

「乗れ」


先程のバイクのそばに行くと、烏丸がいた。


まぁ、わかってたけど。

私は烏丸のバイクの後ろに乗るとすぐにバイクは走り出した。





みんな、ごめんね。








ーーー


「よかった、陽葵が物分かりよくて。」

いつかの屋敷へ来るとまた、足をベッドに繋がれる。


「……」

殺るならはやく殺ってほしい。

こんな茶番いらない。

私は無心でいればいいだけだもの。

みんなと、陽炎のみんなとも天霧組のみんなと離れるのも、会えなくなるのもとても辛いけど。

それに比べたら私がいなくなる怖さの方が何倍もマシだ。



バシッ




叩かれた頬からは爪が引っかかったのか血が垂れる。



「………」

何とも思わない。


おかしいな。



痛い、とかなんかないの私。


「なに、陽葵。
つまらなくなったね。
もうあの目はしてくれないの?」


あの目……

私はどんな目をしていたの?


「………どんな目?」


烏丸を見上げると、死んだ目をしている。


………よっぽど私がつまらないんだな。


「憎しみで溢れた、目だよ」


憎しみ………か。


別に私は、烏丸を憎んだことはないけど。

そんな目をしていたのだろうか。


「………俺にじゃない。
全てのものに憎しみを当てるような目だ」


烏丸は私の思っていることがわかったかのように言う。


全てのもの……










「本当は苦しめて苦しめて殺そうとしてたけど。

つまんないから。

もう殺すわ」










烏丸はそう言って刃物をだすと私の首にそれを当てる。







そしてそれを浅く滑らすと、首から流れ落ちる血。







その血は静かに制服へ染みていった。


「……ほんとにつまんない」


じっと動かず俯いている私を視界に入れて、烏丸は言った。






















「じゃあな、音羽 陽葵。
あぁ、天霧 陽葵か。今は」




















刃物を振り上げる烏丸。































ああ。私はこれで居なくなる。

































みんなと最後に出会えて、幸せだったよ。






































ありがとう、さようなら、ごめんなさい。



































































「…………っ、」



痛い。


痛い痛い痛い痛い。



「はぁっ……、っ、いっ……」



「はははっ、あははははっ」

狂おしく笑う烏丸。


私の胸元に刺さった刃物からダバダバと溢れる血。





ガチャンッ!!!!






その時、この部屋の扉が開いた。





『陽葵っ!!!?!??』



………みんなの、声だ。




「おいてめぇっ!?」

陸。

そんな怖い顔しないで。

「陽葵に何してんだよ!?」

凪。

課題は、写し終わったの?

「陽葵ちゃん、大丈夫!?」

佑。

笑って。

「ふざけんな!!」

昴。

初めて見る、表情。















「あぁ?なんだお前ら……

あー、陽炎だっけ?ガキが。」


笑っていた烏丸は表情を全て消して言う。


「……っ、はぁっ、」


ダメだ……


意識が…………



「まってみんな、陽葵ちゃんが!!!」


私に気づいた佑が言うとみんなこちらへ来てくれた。


「なんだこれ、監禁じゃないか……」

私の足についている鎖を触る音がする。





「陽葵!しっかりしろ!!
陽葵!!!ひま……………」

























昴のその声がした時には、私の意識はもうなかった。












































ーーー


遠い遠い、昔の記憶。



バシッ!

ゴンッ!


体に響く痛さ。

重い。


赤黒い血。

人間の血って、綺麗な赤じゃないんだ。

赤黒いんだ。



「目障りよ」




感情のない目。



私も同じ目をしているのかな?







「ごめんねっ、ごめんねっ」


なんで、どうして?


泣きながら私に手をあげるの?


またくる……


バシンッ!


「痛いよ、お母さん」



「私はあんたのお母さんじゃない!!!」



そうなの?


私のお母さんじゃないの?



じゃあ私を産んでくれた、お腹を痛めて産んでくれたお母さんはどこ?




「ばかっ!!」


パリーン!



お皿もコップも割れちゃってるよ。


危ないから片付けなきゃ。


「どうして、あの人と同じ目をするの!
やめて……いないのよ……

いないのよぉ!!!」



私が割れた破片の片付けをしている後ろで泣きすする音。



泣かないで。


「ごめんなさい」


いくらでも謝るから。泣かないで。


「謝らないでよ!!」



じゃあ、聞こえないように言うね。


「………ごめんなさい」
























「ごめんね、こうするしかないのよ。
あなたも私も。
これが幸せ」


最後に見たあの人の顔は、とても綺麗だった。

私の、お母さん。














優しく頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめて。


私に背を向けて歩いていく背中。


その背中は小さくて。

私はその背中を守れなかったんだ。


「おかあ、さん……………」



"行かないで"




その言葉も言えずに、私はただ泣きじゃくるだけだった。




「陽葵ちゃん、今日からここがあなたのお家よ。」







「………」


































悲しいとか、寂しいとか、そんなものもういらない。




疲れてしまうだけだ。














捨てよう、全部。













一人でいた方が無駄な感情持たなくて済む。




















「初めまして、俺と家族にならないか?」



家族?



優しい目をした人だな。




「妻はもうだいぶ前に他界しているんだけどね」




そう、いないの。




「陽葵ちゃん、君と家族になりたい」





家族って、素敵なもの?

忘れちゃったよ。



でも、この人の所になら。

この人の言う家族というものに少し興味がある。



「いいわよ、おじちゃん」




「ありがとう。音羽陽葵ちゃん。
よろしくね」




最後に私の苗字を聞いたのはこの時だった。






「陽葵ちゃんには、兄が一人できるよ。」


「あに?」


「そう、兄妹」


きょう、だい………



「それと、俺の家にはたくさん人がいる。
みんないい人だから安心して。

だれも、陽葵ちゃんを傷つける人はいない」




傷つける……



私は誰かに傷つけられたの?








「陽葵……?」


「これが輝。陽葵ちゃんのお兄ちゃんだよ」


2人とも、とても似てる。


親子なんだなぁ。


……そう言えば、私はあの人と似ているところはあっただろうか?



あの人はつり目だけど私はたれ目。

お父さんもたれ目だったなぁ。


それからそれから……



思い出せば思い出すほどあの人と似ているところはない。



"私はあんたのお母さんじゃない!!"




本当だったのか、あの言葉。


どこかで信じたくなかった自分がいたことに気づく。




「ここが、陽葵ちゃんの部屋。
好きに使って、何か不便があったらなんでも言って。」



私の、部屋?



こんな広い部屋。

いいのかな?


お母さんと、お父さんと3人で暮らしていたところは狭かったけどとても安心できた。


この部屋も、いつかそう思える日がくる?



その答えを探して、私はこの家に来てしばらくはこの部屋にずっと引きこもっていた。


けど、必ず輝……お兄ちゃんがいた。



「ねぇ、どうしてひか……お兄ちゃんはいつもここにいるの?」



「………輝でいい。」



「…輝、何してるの?」


「勉強。
陽葵もするか?」



「うん」





勉強は好きだ。


やればやるほど結果はついてくるし。


無駄な会話もいらない。


「学校、行くか?」


「………どちらでも」



そしてついて行った場所は日本ではなかった。



そして周りには私よりも大きな人。




「………」


「大学。驚いた?」


「……別に」



最後に驚いたのは、いつだろう。