果たして俺に来るだろうか。





そう思い悩んだのは今でも覚えてるよ。












そして、2人にも過去に何があったのかを知った。



聞くと、昴は俺と同い年なのに俺よりももっと辛い思いをしてるということがわかった。



なのに昴はそれをもう乗り越えて、受け止めていて。


素直にかっこいいと思った。




陸も、俺と少し似てるところがあって。

だけど陸は、ちゃんと向き合っている。





逃げているのは、俺だけだった。










それを聞いて考えたら、いてもたってもいられなくなって。







「俺、"その時"来たかも。」



そして家出して二ヶ月くらいたって家に帰った。







するといつもの事だけど家には誰もいなくて。



だけど、親にはわかってたのかな。


いつかは俺が帰ってくること。



俺の部屋に封筒がひとつ、置いてあった。





開けてみるとそれは手紙で。



『おかえり。父さん、あなたとの接し方がわからないだけなのよ。
許してあげて。父さんも反省してるわ。
不器用なのよ、あの人』


それだけ、お母さんの字で書いてあった。



そして封筒の中を見ると、もう1枚便箋があるのに気がつきそれも見てみると、



『すまなかった。』


って、お父さんの字で一言書いてあった。




俺は初めて、泣いた。




涙って、あったかいんだ。





そしてその時、お父さんとお母さんが丁度帰ってきたらしく、物音がした。



俺は2人のところへ行くと、2人とも泣きながら俺を抱きしめた。



そして2人で謝ってきた。


「俺、居場所ができたんだ。



しばらくそこに居たい。」




気づいたら、そう口が動いていた。



それにまた2人は泣いていた。




「2人の事が嫌になったんじゃない。
俺の気持ちの問題。
高校卒業したら、戻ってくるよ。」




留年しちゃっても、気長に待ってて。



って、笑顔を作って言ったら



「待ってるからな」


「………約束して、必ず帰ってくるって」



大の大人が泣きながら言ったんだ。



それがまたおかしくて、俺は初めて二人の前で"笑った"。


















そして今に至るわけ。



だから、もう少しでここともお別れだな。


気持ちの整理は、もうとっくについてる。



俺のただの我儘でここにいるようなもんなんだ。



そんなとき、陽葵ちゃんが現れた。


よかったよ、現れてくて。


改めて自分の事、見つめられた。



ありがとう。









「ごめんね、長くなったゃった」




そう言ってまた笑うと、陽葵ちゃんは微笑んだ。



「素敵」



そしてそう言った。




「素敵か?こんな事」


自傷的に笑って言うと、


「素敵だよ。」


って、陽葵ちゃんは笑った。


……変な子だな。


だけど、俺より全然。

素敵な子だよ。


「さ、そろそろみんな来る。
戻ろう」


「そうだね。」


そして俺達は屋上を後にした。


























side end


♪~♪~♪~♪~



誰かの携帯が鳴っている。

初期設定のままのこの音は…


「俺じゃない」

「俺でもない」

「違う」

「……陽葵だろ」

「うん」


私だ。


携帯をだして、電話に出る。



「もしもし」

「陽葵か。俺だ俺」

……オレオレ詐欺ですか。


とまぁ冗談はやめておこう。

「わかってるよ」


夏目でしょ。


「どうしたの?」

こんな時間に連絡してくるなんて、なんかあったのだろうか?

「今日輝がまた少し家をあける。
見送りにでも来たら?」


……ということは、来いという事だろう。





「…わかった、いつ?」

「明日の朝出る。だから今晩来い。
マンションまで迎えにいく」

今日ですか。

「了解」

ピッ


そして電話を切ると、みんなの視線に気づく。


「…何」

いや、確かに電話していたらそちらに目はいくがみんなご飯食べなよ。


「陽葵、電話する相手いたんだ」

陸が代表したように言う。

「や、やめろよ陸!そこはオブラートに優しく包みなよ!」

そしてそれを佑があわててフォローする。

…いや、フォローになってないし。

「私にだって電話する相手くらいいる」

私はムッとして言った。

別に、陸の態度が失礼だとは思ってないがそう言うのがいい雰囲気だった。




「なんの電話だったの?」


凪が言う。

「いや、大したようじゃないんだけど。
今日は放課後用事あるから行けないや」

私がそう言うとあからさまにがっかりする凪。

…いつも行ってるからいいじゃない、1回くらい。

とは思いつつ、

「ごめんね、急用」

と謝っておいた。


輝か……

確か、輝の事知ってるの昴だけだっけ?

声かけるべき?

………いや、まだいいや。


きっと、まだそれを望んでいる人はいないと思う。






ーーー


「じゃあ、ありがとう。
また明日ね」


陸のバイクから降りてみんなとばいばいすると、マンションまで行きいつかのように止まっている黒塗りの車へ乗り込んだ。

「久しぶりだな」

「うん、久しぶり」

久しぶりの夏目。

いつぶり?

………怪我の時か、最後に会ったの。


「輝、また1年くらい?」

車が動き出し話しかける。

「いや、今回は短期。
すぐ戻ってくるよ」

………なら私、見送らなくても。

と思ったが。

きっと夏目なりの気遣いなのだろう。

前輝が行った時は、私風邪ひいててちゃんと会ってない。

……別に、大丈夫なのに。


















「ついたぞ」


「ん」


いつものようにみんなに迎えられながら屋敷へ入ると、案の定輝が出かけるからバタバタしている。



私は自室へ行き荷物を置くと、すぐに夏目が来た。




「明日朝イチで行く。
だから今日は」

「飲み」

夏目の言葉の続きを言う。

「正解」

そりゃ、ずっとこの家で生活してればわかってきますよ。


「明人さんに後で顔だしとけ」

「ん」

夏目はそう言って部屋を出て行った。

私は制服からスーツに着替えると部屋を出た。

「あ」

「やっほ」

樹さん。
部屋の前で待ってたのか。

「お久しぶりです」

「久しぶり。元気だった?」

「はい、お陰様で」

「それはよかった。怪我は?」

「すっかりよくなりました」

「よしよし、みんな心配してたからね」

樹さんはそう言って「明人さんのところでしょ?」と私の行動がわかってたかのように言う。

「はい」




そして私は樹さんと明人さんの部屋へ向かった。






コンコン、

「陽葵来ましたよ」

「入れ」


こちらへ戻ってきて明人さんのところへ行こうとすると、いつも樹さんが迎えに来てくれて、こうして一緒に来てくれるな。


「陽葵、元気だったか?」

「はい」



久しぶりにみるな、明人さんの顔。


「悪かったな。輝が仕事に行くだけなのに」

「いや、前はしっかり見送れなかったので」

「そうだな」

明人さんはそう言って笑った。


「輝も喜ぶよ」


だといいんだけどね。



そして少し世間話をすると自室へ戻った。


「……いつまで、続くかな」


このなんでもない生活。















呟いた。