今泉さんの真摯な眼差しが俺を捉える。

紅潮した頬は心なしか強張って、唇を引き結んでいる。



彼女、こんな感じだったっけ…?

もちろん授業で顔を合わせているし、中村先生の特別授業兼お茶会では話もするのだからもちろん顔は知っているのだけれど、今日はどこか違って見える。



夜の闇のせい?

それとも、授業の時だけ掛けている眼鏡が今はないせい?



いつもキリッと聡明な印象が、今夜の彼女はどこか儚げに感じられる。



冷たい風が彼女の肩上で切り揃えられた髪と、ハーフコートの裾から出た制服のスカートを煽る。

黒目がちな瞳が潤んで街灯の灯りを反射する。



物理クラスの仲間の一人が、急に「女の子」に見えた。

それは思いがけないことで、俺はその突然の変貌に動揺しかける。



(こんなことで揺れちゃいけない。)



でもまだ、いやに冷静なもう一人の俺がしっかりと脳裏にいた。

ソイツが背中を押す。



小さく唇を噛み、それから胸に息を吸い込み一気に吐き出すように言った。



「好きとか、興味ないんだ。悪いけど。」