何の事を言われているのかはすぐに分かった。今年の春、なんて言われたらそれは一つしかない。春というよりもう初夏の頃の話だ。
 その時期まっちゃんは新年度が始まった頃で忙しくて、飲みに行こうとか遊びに行こうと誘っても残念な事に中々予定が合わなかった。顔も見てないのにわざわざ報告する様な事でもないので特に話していなかったら、今まで彼の耳には入っていなかったらしい。

「風呂でよっしーから」

 ああ、確かによっしーならあの頃皆勤だったし全部知ってるよなあ……というか男風呂で話してたのならこの話題、まっちゃんの様に聞いてなかった面子にも周知されてしまったんじゃないだろうか。笑ってくれるならネタにも出来るけど、私自身の情けない話でもあるので掘り返されると恥の上塗りでもあったりする。

「妻子持ちのストーカーに襲われたってマジ?」

「襲われたって……いやそうじゃなくて……てかそうじゃなくないけど、そんなおおごとでもないって言うか」

 確かに端折って端折って端折りまくって最短で語るならそういう言葉になるのかもしれないけれど。でもそういう言い方しちゃうと何か凄い事件が起こったみたいだし。

 話題になっているのは友人の主催で行った合コンで出会った五歳歳上の塩顔サラリーマンだ。話を盛り上げるのが上手くて、でも適度に聞き上手で。合コンに参加していた割に、ガツガツした感じがないのも良かった。だから連絡先を交換し、二ヶ月程の間に何度かデートした。といっても片手で足りてしまう程の回数だけれど。
 友達と飲みに行くとか遊びに行くとか言って週末に会えなくても、嫌な顔をされないのは気が楽だった。行動を制限されるのが嫌な私にしてみればポイントが高いけれど、今思えば当然だ。家庭があるなら私とばかり一緒に過ごす訳にはいかなかっただろうから。