「確かに最近家でも時間無くてシャワーばっかりだったし広い岩風呂ってのはいいな。この寂れた感じも味があって、さっきの綺麗な温泉より癒されたわ」

「まっちゃん最近忙しくて皆で集まろうって言っても中々来れなかったもんねー。センセイは大変だ」

「もう『若手』じゃないからなー……」

 うちの営業所は人の出入りが多い方ではないし、まっちゃんの職場である高校も私立なので公立校の様に毎年の移動はないから、定期的に新しい人材が入って来る訳じゃないだろう。そんな環境で目の前にある同じ仕事をひたすらにこなしている毎日でも、アラサーともなれば自分達がいつの間にか『新人』『若手』の時期を通り過ぎ、『中堅』になっているのは嫌でも感じる所だ。社会人になってからの時間の経過の早さは、体感では学生時代の倍以上だし。
 幸い若くなくなったからと言って邪険に扱われる職場ではないので望めばずっと働けるけれど、たまに十年後の自分がどうなっているのかなんてふと考えてみたりする。自他共に認める脳天気な私でもこれからの未来に思いを馳せてしまう年齢になったという事かもしれない。

「…………」

「そう言えば、しま」

 ぼんやりと目の前の茶色い風景の中で風に舞う落ち葉を眺めていたら、まっちゃんがふと思い出した様に話題を変えた。

「今年の春、結構大変だったんだって?」

「えっ、何いきなり……誰かから聞いたの?」

 思わず眉をしかめて隣に座るその横顔を見つめる。