「おっ、まっちゃんこんな所にいたの」

 湯温が高めで暑かったのでロビーでフルーツ牛乳を一気飲みした後、皆より一足先に建物の外に出ると、入口へと続く階段の脇にある石段に先客が座っていた。入浴に関して、女子チームが男子チームよりも早かった試しはない。

 今日の日帰り温泉旅行の目当ては別の有名温泉だった。その帰り、地図を確認していてたまたま見つけた温泉にも立ち寄ってみようと足を伸ばしたら、秘湯と言っていい程周りに何もない所にポツンと古ぼけた温泉施設があった。
 岩造りで露天もあり風情はなくもなかったけれど、単独の温泉にしては小ぢんまりとしていて宿泊施設はない。地元の人間向けの銭湯なのかと思いきや客も完全に私達だけで貸し切り状態だった。何でこんな所に温泉があるんだろう。そもそも週末、しかも年末にこれって経営としてやっていけているんだろうかなんて考えてしまう。
 けれど逆にこの秘湯っぷりがツボに入って、他に客の姿ないのをいい事にお風呂の中でかなりはしゃいでしまった。

「しまっちか。さっきも入ったくせに風呂長すぎだろ……おまけにキャーキャー言う声がこっちまで響きまくってたぞ」

 こちらを振り返ったまっちゃんが呆れ顔で言う。

「あー、他のお客さんいなかったんでつい……泳いだりとか」

「……いい大人が何やってんだ……お前らが全然出る気配ないから何度も出たり入ったりしてたらのぼせかけたっての」

「ごめんごめん。でも凄い穴場だったね。こんな所でこんな鄙びた温泉に出会えるなんてラッキーじゃない?これぞ旅の醍醐味って感じ」

 そう言って彼の横に腰掛ける。