「ハヤテちゃんばっかりずるい！　リイにも味見させてよぅ」


フグのようにぷっくりと口元を膨らませて入江くんの腕を掴んだのは、フグよりも愛らしいリイちゃん。


「がっつくなよ、強欲だな！」

「リイちゃん、今からリイちゃんの分もーー」


作るよ、ってそう言おうとしたんだ。だけど、リイちゃんは入江くんのたこせんに噛み付いた。


「あっ、リイ、お前……！　今から篠田がお前の分用意しようとしてただろうが！」

「だーって待てないんだもーん」


そんな風に言いながらキラキラスマイルでもう一口パクリ。


「あーもう、じゃあこれやるよ。俺次のやつ食うから」

「もういらなーい。リイが新しいのもらうから」


えへへ、と笑ってリイちゃんが上目遣いに入江くんをたしなめてる。この光景を見ていて、あって思った。

昨日入江くんに言われた上目遣い。こうやって自然にするのがときめくんだね。今向かいに座る私ですらときめいたし。

それに、リイちゃんが入江くんの食べたたこせんをかじった瞬間、昨日のスプーンを思い出した。

ファミレスで入江くんが気軽に私のスプーンでドリアを食べたあの時のことを。

あれは普段からリイちゃんとこうやって食べあいっこしてたから普通なんだ。だから人のスプーンでも簡単に食べれちゃうんだな。


でもなんでだろう。

なんでかわからないけど、ちょっと寂しい気持ちになった。