思わずバゲットを握り過ぎ、すぽん、と海老が飛び出していった。

「やったっ。
 もーらいっ」
と自分の皿に飛んできた海老をすかさず、沙耶が食べてしまう。

 ああああああ。
 好きなのに、海老ーっ、と叫びそうになったが、成田への答えがまだだと気づき、
「え、えーと、なんでですか?」
と海里を前にしたときのような引きつり笑いを見せて言った。

「犬塚さんは、ただ、父のお友だちの息子さんってだけですよ」

 あまり面識もありませんし、と言うと、成田は、ふうん、という顔をし、

「いやいや。
 あまりちゃんがレジ打ってるとき、黙ってそれを見下ろしてる犬塚との間に、ただならぬ雰囲気が漂っていた気がしたから」
と言ってくる。

 見下ろしてるっていうか、見下してるっていうか。

 まあ、ただならぬ空気は漂ってますよね、違う意味で……。

 海里は、見合いする前に断ったことで、プライドでも傷ついたのか。

 どうも恨みに思っているような気配を感じていた。

「誰ですか? 犬塚さんって」
と沙耶が身を乗りだし、訊いてくる。