あまりにぼんやりしていたので、なんとなく素敵なカフェで働きたい、というイメージだけを抱いたまま、就職活動もせずに大学を卒業してしまい。

 親が文句を言わないな、と思っていたら、勝手にそんな話が進んでいたのだった。

「あいつ、知ってるよ。
 犬塚の社長の息子だろ?」

 え、なんで? とあまりは成田の言葉に顔を上げる。

「大学一緒だったから」

「ええっ?
 成田さんって、ケンブリッジなんですかっ?」

「……なんで、ケンブリッジってわかったの?」

 釣書読まされたからですよ、とはまさか言えない。

「ケ、ケンブリッジのような香りがしたからです……」

「どんな香り……?」

「テ、テーブル拭いてきますね」
と布巾を手に、あまりは、よろりとテラス席へと向かった。