「いや、駄目。
 もうちょっと黙ってようと思ったけど、あんた、可愛すぎるわ」
と言い出す。

「あまり」
と呼びかけられ、はい、と言うと、大崎は食べる手を止め、言ってきた。

「私の名前は、大崎桐矢(きりや)」

「……きりやさんですか。
 素敵なお名前ですね」
と言うと、大崎は、

「いや、あんた、何処までマジなの」
と言ってくる。

 いや、大崎に似合う綺麗な名前だなと思ったのだが……。

 あまりの頭の中にあるのは、語感だけで、漢字に変換されてはいなかった。

「私は元、海里の家庭教師で、海里の姉、麻里子の夫、大崎桐矢。

 麻里子と結婚にこぎつけるまで、随分、海里に協力してもらったわ」

 あの……ちょっぴり脳が言葉を拒否しているのですが。

 大崎さん、すみません、と完全に大崎の言葉を理解しないまま、あまりは思う。

「麻里子が他に男を作って出て行ってしまって。
 ただいま、ショックで現実逃避中よ」

 日本に戻って女装してブティックなど始めたので、心配した海里がときどき様子を見に来るのだと言う。