その顔を見たまま、沈黙すると、草野が、
「……私!?」
と言ってきた。

「あー、いやいやいや。
 なにも言ってないじゃないですか」

 ちょっと考え事してたんで、と弁明する。

 いや、実際のところ、総務の連中に気をつけろと言われた原因はこの人たちかなあ、とは思っていたのだが。

 今のところ被害をこうむってはいないので、自分の立場からは、悪い人とは言えないような、と思っていたのだ。

 ……羊羹くれるらしいし。

 話をまとめるように、
「いやまあ、社内で悪い人と言えば、支社長くらいのもんですよ」
と言って、草野に、

「……だから、あんた、支社長になにされたのよ」
と言われてしまった。

 そのあと、草野は、いきなり、後ろを向いて叫び出した。

「桜田っ、パン買いに来たんじゃないのっ?
 早く来ないとなくなるわよーっ」

 はっ、はいっ、と桜田は顔だけ出して、何度も頷く。

「あー、なんかイラッと来るのよ。
 ああいうビクビクした態度を見るとっ」
と草野は両の腰に手をやり、仁王立ちで言っていた。

 悪い人、というより、気の短い人かな? とちょっと思った。