海晴くんは、たまたま居合わせただけ。

でも…息がきれてた。

もしかすると、平然を装っていたのかもしれない。


なんて、なんと図々しいことを私は考えているんだろう。

やっぱり1度自分をぶん殴った方がいいのではないか、そんなことを思いながらも、私の心臓だけは私の思いとは裏腹に鼓動を早める。



海晴くんの一つ一つの行動や言葉が、背中の温度が私の中でどんどん色濃く心を染めていく。


なんだろう、この感覚。

ああ、涙が出そう。そう思った時には涙がポロッとこぼれてしまった。


樹里は真剣な表情で、ただ私を見ていた。

こみ上げてきた感情の正体を、ただ私だけが理解できてないの?

樹里には、わかるの?

この気持ちの先には何があるの?


「私は恋とか…できないし。そのくせ、こんな気持ちになって。気持ち整理つかないし。海晴くんの本心もわからないし。でも、ただ海晴くんの優しさが今は嬉しくて。海晴くんだから余計に嬉しくて…」

そう言う私を樹里はぎゅっと抱きしめてくれた。


「ごちゃごちゃ考えるよりも、心で感じなよ。そうすればきっと、いろんなこともっと見えてくるよ」


さっきの海晴くんの後ろ姿ばかりが、思い出されて、私の胸がまた小さく痛んだ。