手当てが済んで保健室から出ると、樹里がちょうど駆けてきた。


「大丈夫?なずな…」

樹里は息を切らしながら、私の元へ来た。

「大丈夫」

頷くと、


「もう、本当に…麗香の奴。あれ、絶対わざとでしょ」

樹里が険しい顔で怒りをあらわにした。


「わざとか、わからないし」

足を少し引きずりながら歩く私の腕を支えて、樹里も歩き始めた。


「前にもこんなことあったっけ?保健室、今日は先生いたんだね。前は、先生いなくてさ、あいつが手当てしたはいいけど。なずな真っ赤な顔で保健室から出てきて…」


「え?そんなこと、あった?あいつって…?」


私が立ち止まると、


「え?確か…1学期の体育の授業で…」


樹里は思い出そうとしばらく目を閉じて考えたけど、


「ああ、なんかモヤがかかったみたい。思い出せない…」


イライラした感じでため息をついた。


「ねぇ、まさかこれがなずなが言ってた失くした記憶?」

樹里が恐る恐る聞いてきた。


「わからないけど…たぶんそうなんじゃないかな」

廊下の静けさのせいで、余計に奇妙な気持ちに拍車がかかって、少しゾクッとなった。