「あのさ、ふぅちゃん…」




「ん?」




「ふぅちゃんは…あたしのこと好き?」




反応を見るのが怖くて俯いた。


でも、一向に返事は返ってこない。


すると、すぐ前からスースーと気持ちよさそうに眠る寝息が聞こえてきて、


なんて言われるか心構えていたから、ホッと胸をなで下ろした。




あたしはなんてことを聞いてしまってんだ…!



あんなこと聞いてどうするのよ…!?



別にふぅちゃんのことは好きじゃないし。


かと言って、ケンケンのことも好きじゃない。




あぁー…!!
贅沢な悩みだけど…どうしたらいいのよーっ!



気づいた時には口から勝手にあの言葉が零れ落ちていたんだ。



ほぼ無意識的に。



なんであんなこと言ったんだろう…って今でも不思議なくらい。



幸い、ふぅちゃんがタイミング良く寝てくれたからよかったけど。



しばらく、ふぅちゃんの腕の中から抜け出せなかったけど彼が寝返りをうとうした隙を見て抜け出した。




そのまま、部屋を出ていこうとドアノブに手をかけた瞬間




「……智織(ちおり)…い」




ふぅちゃんが寝言で誰かの名前を呼んだ。


語尾はなんて言ってるのかよく聞こえなかったけど。


彼の顔はとても辛そうでその人とどんな関係だっかだなんてすぐに分かった。



きっと、彼を傷つけ女嫌いさせた人のことだろう。



それを見ていると胸に針で刺されたようなチクリとした痛みを感じた。



さっきまであたしにあんな甘いこと言って
『俺のことだけ考えてればいいよ』だなんて言ってたくせに


自分は知らない人のことで頭の中いっぱいなんじゃん。



ムカつく……



チクチク痛む胸とふつふつと心に湧いてくる黒い感情の意味がわからずに彼の部屋から出た。