高校生活は意外とつまらないもので。

毎日同じ朝が来て、同じ様に過ごして
同じように家に帰れば、同じように次の朝が来る。

楽しいこともなければ、悲しいこともなく
至って普通な生活を送っていた。

ただ今日はなんだか違くて。

澄み渡り広がる大きな空に、
雨上がりだからか、大きな虹がかかっていた。

校庭からふと屋上に目を向けると、
黒い長い髪を靡かせて、大きな口を開けて何かを発しながら座っている少女が見えた。

「ん?おい南お前どこに...」

「ごめん先生には適当に誤魔化しといて」

僕はそれを見て、なんとなく、本当なんとなくだけど体育の授業を抜け出して、校舎に向かって走り出す。

階段を軽い足取りで登っていく。
4階まで上がると、遠くの方から声が聞こえた。

歌だ。

ドアの前に立ち、古びた硬いドアノブをグイッと捻って、
肩に少し負担がかかるぐらいの重い扉を開ける。

開けた瞬間、強い春風がジャージの間を通り抜けて、空いっぱいに響くような歌声と共に僕の体を包み込んだ。

しっかりとしていて、筋が通った力強い歌声だけど、どこか切なげで。

空気を、空を、全てを虜にしているようだった。
澄み渡る空を映し出した彼女の目を見て、僕は吸い込まれたように呆然とその場に立ち尽くしていた。


まるで、
酸素を、失っていたかのように思う。


「...聞いてたの?」

照れた様に指で頬を掻きながら、気まずそうに話し出す彼女。

「ぇあ、いや、その...声が、聞こえたから、その...つい」

つられた僕もなんだか恥ずかしくなった。

「ねぇ、あのさ、どうだった?...私の歌」

自信なさげにいう彼女。
それに被らせるように

「凄い!凄い良かったよ!!力強くて、芯が通ってた!でも優しい声で...!ぼ、僕説明下手くそだから、なんて言ったらいいかわからないけど!!!」

下手くそなりに、精一杯思ったことを伝えた。
息を吐くように言い終えた後、クスッと笑って

「ありがとう」

と、彼女は天使のような笑顔で言った。

そんな、彼女との出会いで、
何も無い僕の人生に
ぽつりと、虹の欠片が降ってきたみたいだった。