絶対に痩せられるダイエット

無言無表情。


なよ子の瞳は
どこを見ているのかわからない。


そして
なよ子の首には
黒い首輪がぶら下がっている。


キラリと嫌る黒い首輪は
なよ子の不気味さを

一層際立たせていた。



なよ子を見てため息をついた
員子は


手に持っていた体重計を
なよ子の前に


ガチャンと投げた。


「今日は約束の日よ」


にやりと笑う員子。


「乗りなさい」


乾いた空気のつけたい部屋の中に光る
体重計の無機質なデジタル。


このデジタルには温情など
一切ない。


ただ厳然たる現実を
乗った人物に


見せつけるだけ。

なよ子は無表情のまま
無造作に体重計に乗った。


しばらくすると
デジタルに数字が


表示される。


数字をじっと見つめていた員子。


こみあげてくる笑いが
こらえきれない様子。


員子の後ろに控える
マッチョ男も


数字を見て
ため息を漏らす。


員子は大きく息を吸って
なよ子にこう告げた。


「あなたは自分の世界を変えた」


無表情のなよ子。


「あなたに限界なんてない」


無関心のなよ子。


員子はロボットのようななよ子に
こう告げた。


「合格」
員子はなよ子の耳元で
ささやく。


「ここから出なさい。
そしてあなたは気が付くでしょう」


なよ子の耳元に
息を吹きかける員子。


「世界が変わっていることに」



員子はなよ子が監禁されていた部屋の
ドアをガチャリと開けた。


太陽のまぶしい光が
なよ子の目に飛び込んでくる。


なよ子はゆっくりと
ドアから外に出る。


そこには
喧噪と現実が


交差する世界が
広がっていた。


なよ子は思う。


何も変わっていない。


いつもの街並み
いつもの人々。


外に出て
街を歩きだしたなよ子は


何にも変わっていない世界に
ため息を漏らした。


「平凡で何の変りもない世界」


ポツリと独り言。

しかしなよ子は
まだ気が付いていなかった。



なよ子を取り巻く世界が
すこしづつ


変わっていることに。


しかしそんなことも知らず



なよ子は街を歩き続けていた。
久し振りに家に帰ったなよ子。


お母さんとは口も聞かず
目も合わせない。


それどころか
ただいまも言わず


なよ子は部屋に
直行。


やがてお父さんが帰ってきても


なよ子は出迎えることもなく
部屋から出てこない。


なよ子の部屋のドアを
悲しそうな目で見つめる


お父さんとお母さん。


お母さんと仲直りすることもなく
夜が更けて


朝が来た、

冷たい空気が漂う
朝の食卓。


みんな誰も口を聞かない。


しゃべっているのは
テレビのアナウンサーだけ。


穏やかなのは
朝の光だけ。


確かに世界が変わったと思うなよ子。


昔の家は
こんな感じじゃなかった。


騒がしく笑いの絶えない家。


あったかい幸せに包まれていたのに
今はすきま風が吹く


冷たい家。


なよ子は制服を着て
無言で家を出た、。

外に出て
いつものコンビニの前を


通りかかる。


あの商売上手のおじさんが
駐車場を掃除している姿が見える。


おじさんはなよ子を見つけると
笑顔で手を振った。


「やあおはようなよ子ちゃん!
今日も……」


その瞬間絶句するおじさん。


一体どうしたんだろう?


おじさんはなよ子をじっと見つめたまま
息をのんでいる。


おじさんの様子を見て
変だなって思ったなよ子だったが


軽く会釈をして
通り過ぎた。



ずんずんと進んでいくと
その先にバス停が見えてきた。


バス停には
他校の男子生徒が


バスが来るのを待っている
姿が見える。


しかしなよ子は
男子生徒が自分を

ジロジロ見ていることに
気が付いた。


変だな?


もしかして
スカート履き忘れた?


なよ子は焦って
下を見るが


かろうじてスカートは
履いている様子。


ほっとしたなよ子は
歩き続けるが


男子生徒は
まだジロジロと


なよ子を見つめていた。


やがて学校に着いて
教室に入るなよ子。


しかしここでも
なよ子は異変に気が付いた。


教室の中にいる男子たちが
なよ子をチラ見しているのだ。


もしかして
頭に巨大カブトムシでも


ついてるんじゃないかと
髪の毛を触るなよ子。


しかしそんなものは
当然ついていない。


首をひねりながら
なよ子は席に座る。


教科書とペンケースを出して
授業の準備をするなよ子。


その時


ペンケースの中から
消しゴムが飛び出して


床にころころと
転がった、


その時なよ子は
驚くべき光景を


目にしてしまうのである。