私は学校の敷地の隅にあるプレハブ小屋のような建物に入る。ここの一室が私の所属するイラスト部の部室だ。
私はカバンから鍵を出した。
「仁摩、鍵もってんの?」
梨木が驚いたような声を出す。
「あー。うん。一応さ私部長だから。」
私が答えると梨木は
「ふーん。」
と納得したような声を出した。
部長の扉を開けると古びた机にパイプ椅子が並んでいる。そしてその周りは本棚や冷蔵庫などでごちゃごちゃしていた。
「梨木そこ座りなよ。」
私はそう梨木に声をかけ、冷蔵庫へと向かう。梨木は「あぁ」とか「うん」とか言いながらパイプ椅子に腰を掛けた。
私は冷蔵庫からこの間飲もうと思って買ったいちご•オレを出した。
「梨木、飲む?」
梨木は
「えっ?飲まないよ。」
困惑したように答える。 
「そう?」
私はそれだけ言うといちご•オレにストローを差して、飲む。そして聞いた。
「あのさ、教室の中にいたのて誰?」
心臓が激しく鳴っている。それを出さないように私は必死だった。
梨木は暫く言いよどんでいたが、
「明莉(アカリ)だよ。山村明莉。」
山村明莉(ヤマムラアカリ)。明るい溌剌とした性格で面倒見もいいしっかり者。男女問わず友達が沢山いる。そして梨木の幼なじみだ。
「相手は?」
「…望月悠斗(モチヅキユウト)。」
望月悠斗は愛されるバカという言葉がしっくりくる子で皆のいじられ役。のくせに身長はそこそこあるしスポーツは出来るしで隠れファンも多いと噂だ。そんな望月は梨木の親友だったりする。
「そう…。」
私は一言そう言って梨木を見た。
固く握られた拳。その拳は少し震えているように見えた。
だからつい言ってしまった。
「泣けば?」
と。
「えっ?何で?」
梨木が驚いたように私を見た。
そりゃそうだ。そう発言した自分自身でもびっくりしている。しかしもう後には引けない。
「つらいんでしょ?山村さんにふられて。だから。泣けばいいじゃん。今ここに私しかいないんだし。」
梨木は
「意外とよく見てんだね。」
と苦笑しながら言った。そしてどことなくその声は震えていて。そのまま静かに涙を流した。
「あっあれ?俺何で涙でてんの?」
梨木は戸惑っているようだった。 
私は
「思いっきり泣けば?私はどこにも行かないよ。」
「敵わねぇな。」
そしてそのまま号泣し始めた。
私はそばにいることしか出来なかった。私だって泣きたいんだから。