彩雪side
忘れ物に気づいたのは放課後部活が終わった後だった。
「彩雪帰ろー。」
と声をかけてくれた友達に断りを入れ、私は一人教室へと取りに行く。
何も考えずに自分のクラスの教室を開けようとした瞬間、急に強い力で腕が引っ張られた。
「えっ?!なっ!」
「静かにして。」
食い気味に耳元で囁かれた。
誰?
そう思い声の方を向くと同じクラスの梨木翔だった。
「何で?」
小声で私がそう言った時
「好きです!付き合って下さい!」
教室から女子の声がした。
そういうことか。誰かが誰かに告白するところだったらしい。それで梨木は私が教室に入るのを止めたのか。私が一人納得していると、梨木が私の腕を掴む手の力が強くなった。
「梨木、痛い。」
私はそう言いながら梨木の顔を見た。梨木はそれで我に帰ったのように
「あっ。ごめん。」
とバッと私の腕を放す。
梨木は泣きそうな顔をしている。
あぁそうか。そうなんだ。
その顔を見た時私は悟った。
梨木はこの教室の中にいる梨木以外の男の子に告白したあの子のことが好きなんだ。
胸がズキリと痛んだ。
そして梨木をここから引き離さなければという使命感におそわれた。
「梨木、部室に忘れ物した。取りに行くの付き合って。」
「えっ。何で?」
梨木が戸惑っているのが手にとるようにわかる。
「いーじゃん。行こ。」
私は梨木の手を引いた。