秘書 松山side

「松山、こいつを、磯崎花を無事家まで送り届けてやってくれないか?」

磯崎花の首根っこを摑まえて、南さんがそこに立っている。

スティーヴンに英語でメニューの説明をしていたところに、そんなことを言うものだから、ビックリして大きな声をあげてしまった。
「はい?」

大きな凶暴な野獣に捕らえられた小動物の図。

「こいつけっこう酔っ払っていて。心配だからさ。おまえ、友達なんだろ?」

「いや、友達というかただのテニス仲間です。」

「いいから業務命令だ。すぐに家まで送れ。今日はもういいから。」

私は、腑に落ちなかったけれど、南さんがそういうなら仕方がない。


というわけで、なぜか、うとうとしている磯崎花とタクシーで彼女のマンションまで向かう。

ちょっと、待って。

ここっていつぞやか、南さんが自分の車をコインパーキングに停めていたところの近くじゃないかしら。

ていうことは、南さんは磯崎花のマンションに行ったことがある?

でもその状況だと、南さんは、磯崎花の家には泊まらず、そこに車を停めて自宅へ帰ったと考えられる。

そう結論に達して、ちょっとホッとした。

「松山さん、スミマセン。私、そんな酔ってないのに。 ね、松山さんうちで飲みなおす?」

「いやよ。私は仕事に戻る。南さんは、そのまま帰っていいって言ったけど。」

「あの外人さんたち、アメリカ本社の人たちだって金沢君が言ってました。」

「そうよ。」
私は少し不機嫌に言う。

「南くんは、あの金髪美女さんと結婚してアメリカに行っちゃうんですか?」

「そんなことまで、あの金沢はペラペラじゃベってるの?」

「ほんとなんですね?」

「さあ」
私は、あの男の口の軽さに呆れて、イライラした口調で返す。