「ねえ松田」


昼休み、
松田先生のところに訪ねた。


「どうしたんだよ」


「…楓が辛そうなんだよ。」



「竹内が?」


楓は何か辛そうだった。
舞には長年一緒にいるし
話しやすいだろう。


でも、あたしは?
まだ一緒にいる時間が少ない


「なんて声をかければいいか分からない」


「じゃあよ。木下」


松田先生はコーヒーを
一口飲んだ。


「俺が最初の頃話しかけてどう思った。」



「…なにコイツ。」


あたしがそう言うと
顔をしかめた


「あ?」


「そう思った。…自分から聞いておいて何なの。あ?って。」


廊下からは
楽しそうな声が聞こえてくる


「もしかしたら、竹内もそう思ってるのかもしれないんだぞ」



楓が?ウザいって、思ってるのかもなの?



「人には、聞かれたくない事とか1人の奴には言えて他の奴には言いたくない─なんてことがあるだろ」



お前もだろ、木下。
そう言われた



…確かにあたしもこの人には言えない
人に悩みなんて、もう絶対に言うもんかと思っていたから


「じゃあどうすれば」



「…何も聞くな、相手が言ってくれるまで待つんだよ」



"相手が言ってくれるまで待つ"



「きっと、竹内も言いたいと思うぞ?けど、木下とはまだ一緒にいる時間はそう長くはねえ」



じっ、と瞳があたしを捉えていた
群青色の瞳が



「だから、まだ戸惑ってんだよ。」



「…戸惑ってる?」



あんなに気さくな楓が
悩んでるの?



「あぁ。でも、悩みを打ち明けられたらとことん聞いてやれよ」



ニッと松田先生は
笑った。



「分かってるっつーの。ありがとうございました、失礼します」



楓が話してくれるまで
待とう。


あたしはそう思いながら
数学準備室を出た。