その日のことはよく覚えている。

秋のとても晴れた日。
その年一番の晴れっぷりだったと思う。

それは、その年一番に落ち込んでいたわたしとは対照的に。
腹立たしかった。
漫画や小説のように、登場人物が落ち込んだら雨が降り、うれしかったら快晴になる、なんてことが、どうしてわたしには起こらないのだろう。

県立図書館の敷地の中にある公園のベンチで、わたしは黄昏ていた。晴れた日の空はとても高くて、自分がちっぽけな、影の薄い存在であることを突き付けてくるかのようだったから、うつむいて、薄汚れた靴のつま先を見ていた。


しばらくそうしていた時だった。


「泣いてるの?」


急に頭上から降ってきた声に、わたしはとても驚いて、肩を震わせた。
そして、その声が自分とは年が離れているであろう、成熟した男のものであることに、今度は怖くなった。
もともと人見知りなのだ。特に男の人は得体が知れなくて、女の人を前にするよりあがってしまう。


わたしが固まっていることに気づいた彼は、宥める様に軽く笑って、わたしの座っているベンチの後ろにあった植木の縁に腰かけた。
ベンチより一段低いそれのおかげで、私が顔を少し横に向けると、彼がどんな格好をした人物なのかをざっと知ることができた。


「え?」


彼の服装を目にした私が思わず声を発してしまったのは仕方のないことだったろう。


彼は、いわゆる「女装」をしていたのだ。


瘦せ型で細身の体型らしく、よく似合っていて、違和感は声だけだった。