「有栖川さん、面会終了ですよ。」


看護師さんが優しく話しかけてくれた。


「えっ、もうそんな時間ですか!って30分もオーバーしてる……。すいません!」


慌てて時計を見ると面会終了の8時から針は大きく下を回っていた。


「大丈夫ですよ、いつもいらっしゃるから特別。」



そう優しく微笑み唇に人差し指を当てていた。

私も幸も顔を見合わせてクスッと笑った。


「じゃあね、幸。明日、7時半に玄関に向かいに来るから。」



私はそう言い残して病室をでた。明日からの学校が楽しみで、まるで遠足まえの小学生みたいにワクワクしていた。






「ただいま。」


玄関の電気をつけ、脱いだ靴をそろえリビングへ向かった。ドアを開け、和室のふすまを開け正座した。


「お母さん、お父さん。ただいま。」


明日から、幸と一緒に学校行くんだよ。とっ添えて、ただいまのあいさつをした。
 






私の両親は1年前に他界した。




同じ職場だった二人はその日、出張から帰る途中で運悪く列車の脱線事故に巻き込まれてしまったのだ。そのあとは親戚が引き取るといってくれたが、遺産も十分だったし両親の出張が多かったからたいていのことは自分でできたので断らせてもらった。一人で住むには大きすぎる家だが、その親戚の息子がよく遊びに来てくれるからそんなに寂しくはない。


今日も、ほら。


「お、ありすお帰り。」


まるで自分の家のようにソファーに寝そべり、アイスを食べている。


「ただいま。お風呂入った?」


「もちろん。」


当たり前のように生活している。


でも、初めはそれがうれしかった。


私のためにわざとふるまってくれているのか、天然なのかは知らないけど寂しさが薄れたのは紛れもなく彼のおかげだった。


「そう。で、朝比奈陽菜(アサヒナ ヒナ)君。君が食べているのは私のとっておきアイスでいいかな?」



冷凍庫の一番隅に置いていたとっておきのアイス。イチゴ味の限定品だ。


「うん!とってもおいしい!」


そういい、笑顔を浮かべながら後ずさる。


「ほう……。いい度胸だ。」


私は逃げようとする彼を追いかける。


「うそ!うそだから!これは自分で買ってきたやつ!!」


そう言って私の名前が書いてあるアイスを取り出した。


「あ、ほんとだ。じゃあいっか。」



私はそのアイスを受け取り、ソファーに座った。