「明日から、学校いけるんだ。」



彼は嬉しそうに言っていた。

彼が記憶をなくしてから三日が経っていた。

彼は人のことを思い出せなくても、日常的な生活のことや勉強したことなんかはしっかりと覚えていた。


_彼の記憶のなくし方はとても奇妙なものだったらしい。_


四日前、彼は交通事故にあった。信号を無視して無理やり突っ込んできた車にはねられそうになり、間一髪でよけた。そのとき、運悪くガードレールに頭を打ってしまったのだ。一日昏睡状態に陥った後、目を覚ましたら彼の周りの人間について忘れてしまっていた。


「退院したら、一緒の高校だね。」


その言葉を聞いて彼はニカッと笑顔を向けた。


「おう!ありすと一緒に学校に行けるな!」


そんな無邪気な彼を見て私は複雑な感情に支配された。

このままでいいのだろうか。このまま彼には依然の人間関係を告げなくてもいいものなのか?




「……ねえ、幸。幸は友達とか恋人のこととか知りたい?」


その問いにきょとんとした顔を向けられた。


「まぁ、知りたくないことはないけどさ。てか俺、彼女いたの!?」

彼女の存在すら覚えていないらしい。

「いたよ、中2から付き合ってる彼女。」


私はその次の言葉を紡ごうとした。


しかし、


「待って!彼女は自分で見つけたい。俺昔から飽きっぽかっただろ?中2から高2までってそんな長い間好きだった人の事はきっと見つけたい。運命かもしれないだろ?」


そんな言葉にクスッと笑いがこみ上げた。

……変わってないなぁ。ずっと。



「わかった。ちゃんと運命ちゃんのこと見つけてあげなよ?」



きっと、きっと幸なら見つけてくれる。もう一度やり直せると思った。



「おう。待ってろよ、運命ちゃん!!」



だれそれ、と私は大きく笑った。


















ねぇ、幸。ちゃんと見つけてね。






「運命ちゃん」今も幸の目の前にいるんだから。