不思議とそれが悲しいことだとは思わなかった。それが自分なのだからしょうがないとさえ思えた。

だから私にはなにもない。
友人はいても私の記憶には存在しない。明日いなくなるかもしれない雲のような存在だ。


何度も作った恋人も名前を呼ばない私を不審に思ったのか、長くは続かなかった。



それも、もう誰なのか顔すら思い出せないけれど。



そういえば、どうして私は彼の言う″いつもの場所″を知っていたんだろうか。

毎日のようにそこに行っていたわけでもないのに、どうして覚えていたんだろう。



「ああ、呼んでみたかった」



一度でもいいから、彼の名前を。

そしたらその声を私はもう忘れないのに。



きっと心の奥底に閉じて、開けたりしない。