そしてぼんやりと思ったのだ。
彼女の名前は、なんだっただろうかと。
私は、欠陥品だ。
何かを覚えることができない。
数学の公式も、古文の訳も、英単語の意味だって、全部今なら言えるのに。
自分が行ったはずの場所も、自分の苗字も、友人達の名前も、なにも言えない。
今、私が通っている学校すら何なのか私は分かっていない。
高校二年生の夏、思い出というものを作れない体質なのだと知った。
病院にも連れていかれたが、特に悪いところがあるわけでもなく精神的な問題だと言われた。どうやら私は精神に問題があるらしい。
思い出せば、私は楽しかった記憶も悲しかった記憶もなかった。泣いた記憶もない。
考えれば考えるほど自分がどうやって生きてきたのか不思議になるほど、その道が全く見えなかった。