手早くルームウェアに着替え、ハンドタオルを肩にかけてからキッチンのほうに向かう。
「あ、ヒユウ。まーた髪の毛乾かしてないの?」
こっちおいで、とソファに手招きする彼の手にはこうなるのを見越したかのようにドライヤーが握られている。
「ごめんなさい、」
「いいよ、俺ヒユウの髪の毛乾かすのすきだから」
「…私も」
「ん?」
「私も、あなたの手がすき。だから、乾かされるのもすきよ」
振り返れば、彼の白い頬が珍しく赤くなっていて、私は少し笑ってしまった。
「私、ちゃんと覚えてるの。あなたの手つきも、いつもこうやって乾かしてくれることも。あなたのしてくれることはちゃんと覚えてるの」
あなたという存在がいつも不確かなだけ。
「だからそんな不安そうにしないで、1日1日あなたを確認しているだけなの」
赤くなった頬に触れると、彼はドライヤーを手放して私を抱きしめた。
ぎゅううっと力の込められた抱擁に、なぜだか胸が苦しくなる。