冷たいシャワーを浴びて何度も言い聞かす。
もう1人にはなりたくないでしょう?
彼を捨てられない。彼しかもういない。
ヒユウは彼にしかつくれない。
一人暮らしを始めてから私は暖かいお湯で体を洗ったことがない。
実家にいるときは普通に体を洗って湯船につかっていたはずなのに、一人になってから冷たい水で洗うし湯船にもつからなくなった。
毎回お湯がはってあるのを知っているけど、実は1度もつかったことがない。
それはどうしてなのか自分でもわからないけれど。何故かそうしなくちゃならないような気がして。
「っ、は」
ぱしゃりと顔を洗えば息が詰まったように苦しくなった。
シャンプーをしてコンディショナーをして、彼が買ってきたトリートメントも丁寧につけて洗い流す。
いつかみた髪の毛よりも艶々になった自分のグレーがかった髪の毛を見つめながら、タオルで水滴を拭き取る。
脱衣所でルームウェアに着替えているとキッチンのほうから「ヒユウ〜?」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。
今日はいつもより遅かったからかもしれない。彼はいつもこうだった。
私がお風呂から上がるのが遅いと心配して声をかけてくる。彼は極度の心配性だった。
脳が何かしらおかしい私を一応危惧してのことかもしれない。
「今上がった!」
と声を張ると、「よかった」と彼の安心した声が聞こえてきた。