「ヒユウ 、お疲れ様」
白い彼が私に向かって手を振る。
仕事終わり、毎日現れる彼はヒユウと私を呼ぶ。その声が心地よくて、私はそれに安堵のため息を漏らす。
今日も、私を呼んでくれる。
彼を、待っている私がいる。
「ヒユウ、今日はご飯食べる?」
「ううん、今日は家がいい」
わかった、その声と共に降りてくる優しい手の感触はもう違和感を感じさせなくなっていた。
いつから彼とそばにいるのか分からないけど、それを不審に思うことなんてなかった。私の始まりはいつもそうだから。
「泊まっていっていい?」
車の助手席に乗り込む私を覗き込む彼が、聞きなれた言葉を口にする。
彼がこの言葉を口にする度、頭の中で再生されるのが彼だと分かり嬉しくなる。
「いいよ、」
もう何度も言っているはずのいいよも、酷く緊張する。一人になりたくないのに強がりそうになる。彼と近づいてもいいのか、昨日の私に聞きたくなってしまう。
「よかった、俺最近ヒユウいないと寝れなくて。断られたら明日どうしようかと思った」
それでも彼が私を必要としてくれるから。
彼のそばにいる理由をくれるから。
「きっと、私もよ」
不安になる私を救いあげるのは、きっと昨日も今日も彼の言葉なんだろう。
確かなものではなくても、曖昧な優しい愛が私の居場所だって、今の私は馬鹿みたいに信じてる。