振ったあなたが嫌い。

頭を下げることしかできないあなたが、かっこ悪いと思った。

「さよなら、もう少し一緒にいたかったわ、ありがとう」

あなたが、心地よかったよ。

誰よりも。あなたに恋しなくてよかった。
ドロドロに溺れないこの関係が私は好きだったのよ。

あなたなんか、好きじゃあ、なかった。

「深雪、」

情けないその顔も、一年半も一緒にいたのにね。不思議ね。初めて見たなんて。

「深雪、待って」

私に縋りつく声が好きだったと言えばあなたは私を手放して良かったと思うんだろうか。

あんな女、捨ててよかったと。

「なに?」
「俺のこと、好きだった?」

彼の拳がぐらりと揺れた。

「少しでも、好きだった?」

そうね。

「少しは、好きだったよ。あなたの声も、表情も覚えてるもの」

あなたの名前は、もう、わからないけれど。

「…っ、よかった。ありがとう深雪」

静かに伝った頬の涙に私の手は届かない。
届くはずがない。

それでも確かに覚えていた。
一年前に私を呼び止めた彼の表情を。
あなたの名前を聞いたときのあなたの涙も。

全て、わかっていた。