それでもなんでもいい、と言うのは何となく気が引けて彼の意見から決めようと思った。

「俺?俺も寿司は好きだったけどなあ。今日はなんとなく和食でも食べたい気分」

「じゃあ、美味しい和食食べれるところに行きたい」
「えー?セツナは?俺の食べたいものでいいの?」

「私、食べたいものっていまいちわからないの。だからこれからもあなたの好きなお店に連れて行って」


じっとハンドルを握る彼の横顔を見つめてそう言うと、微かに見える彼の瞳が揺れたような気がした。

ぎゅっ、と真一文字に口を結んで、意を決したように、丁度赤になった信号に彼はゆっくりと顔をこちらにむける。




「また、来てもいいってこと?」

これからも、という私の言葉に気づいたのだろう。それに私は何となく嬉しくなって、何回も縦に首を振った。


「…よかった」

吐き出されたようなそれは安堵で。
首を微かに傾げる私に彼は続ける。

「セツナが今日俺のこと覚えてくれてたのは嬉しかった。でも、覚えてたってことはこれから会いたくなくなるんじゃないかって、不安で、だから、安心した」


ハンドルにもたれかかるように下がった頭に、今日初めて完璧じゃない彼を見た気がした。