エレベーターを出て近づいていくと、彼はセツナ、とまた繰り返した。
ああ、よかった。ほっと胸をなで下ろす。


私、この人のこと知ってた。


「こんばんは」

ぺこりとお辞儀をすると彼が私の頭を優しく撫でてくる。

あ、これも、知ってる。
溶けそうな白い手が優しく動くってこと。
そうだ、ちゃんと見たことを覚えてる。


「俺のこと覚えてたんだ」

そう言って、彼は嬉しそうに笑った。

その笑顔に何となく安心して、私は気づけば頭の上にのっている彼の手を掴んでいた。



「…、セツナ?」

嫌がることなくただ不思議そうに、私の掴んだ自身の手を見つめる彼に気づいてハッとした。

「ご、めんなさい、あの、」
「今日は、どうして」

それでも彼の手を離すことは何故かできなくて。代わりに咄嗟に思いついた問いかけをぶつける。


「え、ああ、ただセツナと会いたいと思ったからだよ。セツナに覚えてもらいたいし」


そう言って少し恥ずかしそうに頬を触った彼は

「今日は一緒に夜ご飯でも食べよう、セツナ。帰りはちゃんと送るから安心して」

そう言って彼はまたふにゃりと頬を緩めた。