「知り合い、ですか」

忘れてるだけかもしれないと質問を投げかけてみると、その人は怪訝そうに眉を潜めた。


「もしかして、わからない?俺、そんなに顔は変わってないと思うんだけど」

「あの、名前は」

「飛雄だよ、三年前に会ったはずだけど」


ひ、ゆう?

頭の中で何度もその名前を反響させて、
腐りきった記憶の山を掘り起こす。
三年前のことなんて、覚えてるわけがない。


それでも、目の前のこの人が必死で訴えてくるから探さずにはいられなかった。


「ごめんなさい、わからなくて」

「あー、いいよ。セツナにとって俺はその程度だったってことだし、悪いのはセツナじゃなくて俺だ」

何故か、その言葉に胸がチクリと痛んだ。
私が忘れたものに気づくたびに自分に言い聞かせていた言葉と変わらないものなのに。

気づけば、弁解の言葉を並べている自分がいた。


「違います!あの、違うんです。私、誰でも忘れちゃうんです、人のこと覚えられないんです。毎日会ってないと誰なのか忘れてしまうんです、だから、あなたのせいじゃないの」

何を言ってるのかわからない程のぐちゃぐちゃの文章だったのに、必死に言葉を繋げたそれに彼は嬉しそうに頬を緩めた。