この数年の月日の中で私が深雪を覚えていられたのは、両親が1日に1回かけてくる電話のおかげでも、上司に名前を呼ばれるからでもない。
朝目覚めるたびに、あの声が呼ぶから。
毎日の繰り返しがこの身体に染みをつくっていた。
ふと来たくなる駅前のカフェは、なんの繰り返しで覚えたものなのだろうか。
何杯目かわからないコーヒーを飲み干して、私はあるはずもない記憶の糸口を必死に探していた。
どうでもよかった記憶を探すようになったのはいつからだったか。ただ、このカフェが私にとって大きなものだったような、そんな感じがして仕方ないのだ。
カフェの店内を隅々まで見渡して、何もないことを数えきれいくらいに確認して、私は帰路につく。
そして赤い夕焼けをを見て、私は思うのだ。