悲しげに歪む彼の瞳を私はまだ忘れられない。

私を呼ぶ彼の声を、覚えている。
気づけば彼の声で、自分の名前を認識していたことにどうして気づけなかったんだろうか。


ぐらりぐらりと傾く私の世界を、止めてくれたのは彼だった。

私の世界が傾けば、もう元には戻らないことを彼はなんとなく分かっていたのかもしれない。


もう、止まらない。

傾き始めた世界を、止める術を、
私は知らない。






さようなら、名前の知らない大切な彼。
さようなら、平凡で綺麗な私の世界。















「理子」


いつの日か聞いた名前が、私の脳裏をよぎって黒く塗りつぶした。