短めの軽快な音楽が流れる。期間限定で今はどこかのテーマパークの歌になっている。
「まもなく、1番線、ドアが閉まります。閉まる扉にご注意下さい。」
いつものアナウンスが機械的に流れて車のドアが閉まろうとする、とガコンという音とともにドアがまた開いた。
誰かがギリギリで乗ったんだろう。
「セ~フ、ラッキー」
そこから1人の男子が入ってきた。よく見知ったあいつの顔。バッグについているリンゴのキーホルダーが電気にあたってキラリと光った。あいつは少しキョロキョロした後、反対側のドアに寄りかかっていた私を見て片手をあげた。
「よう、ぐーぜんだな」
「まさか、今駆け込み乗車したのあんた?」
「ち、ちげーよ。天が俺を乗らそうとしてくれたおかげだし」
思わず吹き出した。
「いや意味わかんないし!」
「ようは俺は女神様に愛されてるってことだよ」
「もう、ダメだよ。危ないでしょ!」
「へいへいうるせーなー」
私が怒ってもあいつは気の抜けた返事しかしない。それどころか挑発してくるありさまだ。
「当たり前でしょ!なんかあったらどーすんの?」
「別になんもねーよ。先生みたいなこと言うなってかたっくるしーなー」
「あのねえ...」
あいつはいつも私の注意なんかきいたりしない。
「で、どーよテスト勉強は」
話を逸らされた。
「んー微妙かな。今回はいつもよりちょっと遅めに始めたから」
部活が忙しくてついつい先延ばしにしていたのだ。でももう1週間前になってしまってそんなことも言っていられない。
「へー、ま、俺は余裕だけどな」
「あんあたいっつも赤点ギリギリじゃん」
「ギリギリじゃねえよ。がっつり赤点だ!」
腰に手を当てて自慢げにあいつが言う。
「いや堂々と言うことじゃないから!もーほんとに...」
怒られてもしらないよ、そう続けようとしたとき突然電車がブレーキをかけた。
「おわっ、わっ」
「へ、わあっ」