「ほら、これ、お前に合いそう」

叶多が私に見せてきたのは、真っ白のミニスカワンピース。フェミニン系でシフォンフレアの裾に、ウエスト部分には薄茶色の細いリボン型のベルト。袖はレースになっており、全体的に柔らかい印象のワンピース。

「可愛い……」

思わず見とれていると、叶多はその服を私に渡してきた。

「ん」

「ん?」

「ん」

「ん、じゃわからないんだけど」

「着て」

「だから、ん、じゃわからな……えっ?」

着て、って言った…?つまり、試着しろと?

どう反応していいのかわからず固まっていると無言の圧力で「着ろアピール」をされた為、仕方なくそのワンピースを持って試着室へ行く。

(なんでこうなるの…)





「着たか?」

「んー、着たけど…恥ずかしいから脱いでいい?」

「は?何言ってんの。着替えたんなら出て来いって」

(いやぁぁ……何か急に恥ずかしくなってきた…!)

そういうモチベーションで来てなかったから、いざオシャレな服を着ると浮いてしまうのではないかと不安になる。

その上、この服を着て出るには些(いささ)か抵抗がある。着てみて気づいたのだが、このワンピースはウエスト部分がキュッと締まっているため、胸を強調したようになる。

(どうしよどうしよどうしよ、何か羽織るものないかな…!?)

私が試着室の中で悶々と考えていると、「開けるぞー」なんて声が聞こえるから慌ててカーテンを押さえようとする。しかし、それも間に合わず、問答無用でカーテンが開かれる。

シャッ…

「!」

(うぅ…早く着替えたいよ……)

叶多にジロジロ見られ、その場に固まる。

「ど、どうせ似合わないって思ってるでしょ!?だから嫌だったのよ!こんな服を着させるなんて、私を揶揄ってるわけっ?」

羞恥のあまり早口でまくし立ててしまう。
一度大きく息を吐き、目の前に立っている叶多を見やると意外な表情をしていた。

(え?)

そこには、頬を赤く染め、じっとこっちを見つめる叶多。驚きか歓喜か読み取りづらい表情のままこちらを熱く見つめる為、その視線に耐えきれず、ますます羞恥心が出てくる。

「わ、私、着替えるからっ……」

くるっと振り返り、もう1度カーテンを閉めようとしたら、後ろから手を引かれ動きを止められる。

「…そのまま着てろ。それ、お前にやる」

(え?)

「店員さーん」と手を挙げて呼び、会計まで話を持っていく。私はその流れについていけず、ただ呆然と立っていた。

そうこうしているうちに、いつの間にか会計が終わり、叶多は店を出ようとしていた。

私もその後を慌てて追う。

「ちょ、ちょっと待ってよ!急にどうして服なんか…」

「…お前、水着着れないだろ。毎年、泳げないって理由で水着を着ずにいっつも暇そうにこっち見てて、俺達も、その、遊びづれーっていうか、気になるっつーか……とにかく、お前だけが除け者みたいで可哀想だからよ。せめて浜辺で遊べるくらいの服を着させてやりてーって思って……あー、くそ…このくらい、言わなくても察しろよ…」

(もしかして、私に気を遣って…?)

赤くなり、頭を掻く姿を見て、胸が温かくなる。

(…馬鹿)

こういう時くらい、素直にならないと……

「あ、あの…!」

「ん?」

「あ、あり、がとう……」

「っ!………おう」

すぐに顔を逸らし、ぶっきらぼうに答える幼馴染みに愛しさを感じ、少しだけ素直になれた。

それもこれも、このワンピースのお陰か。

(大切にしよう)

頬が緩むのを我慢しながらお店を後にした。