「馬鹿。手首なんか痛めて、次の試合出れなかったらどうするのよ。ほんっと考えなし」

「うっせーな…」

皆が帰り去ったあと、不貞腐れる叶多に話し掛け、部室で怪我の手当てをする美晴。

美晴のロッカーの中にある救急箱を取り出し、湿布と包帯を施す。

少し痛みがあるのか、包帯を巻く時に顔を顰(しか)める。

「…どうして急にあんな無茶なこと言ったの?確かにアンタはうちの部のエースでちゃんとした実力もあるけど、キャプテンに勝てるほどの力はまだついてないの。なのにあんな無謀なこと言って…おまけに怪我して…ほんっと馬鹿」

可愛くもない言葉を口から出しながらも、心の中では心配をしていた。いつもと雰囲気が違う叶多の様子が気になるあまり、心配や労いの言葉が出てこない。

そのことに気付いているのかいないのか、叶多はさらに不機嫌になる。

「…なんで負けたんだよ。クソッ…」

「……」

いつもだったらここで「アンタが闇雲に突っ込むからよ」なんて言うのに、今日の叶多はいつもよりピリピリと心が張り詰めていた。だからこれ以上は言えなかった。その代わりに、今まで気になっていたことを聞く。

「……ねぇ、どうしてそんなに先輩に突っかかるの?いつも先輩がシュート決めたりすると、アンタは負けじと食いつくけど…なんでそんなに負けたくないの?」

「なんでって…ここまでしても分かんねぇのかよ、お前…」

頭を掻き毟(むし)り、焦れったそうに嘆く。

すると少し俯き気味に下げていた顔を上げ、美晴が聞く。

「…先輩のこと嫌いなの?」

「……

……あぁ、嫌いだね。俺はアイツが嫌いだ」

顔を伏せ、小さく、だがとても強い口調で言い放つ。

「どうして…?」

「…理由なんてない」

またそれ?と思い、さらに理由を聞こうとしたら、叶多は乱暴に頭を搔き、「手当て、サンキュ」とだけ言って部室から出ていった。

一人になった美晴は、藤原にばかり対抗意識を燃やす叶多に戸惑いながら、どうしたらいいのか頭を悩ませていた。