「とりあえず
 あんまり上の階に行かないほうが
 身のため。
 アイツの女関係には
 関わると面倒だからな」


「あ、うん」



“関わると面倒”という事は
過去に何かあったんだろうなと
理解してそれ以上は
問いたださなかった。



「子供じゃないし
 アイツのプライベートには
 一切関わらないし口を出さねぇけど
 女癖の悪さだけは
 会社の副社長としての立場を
 考えてもらいたいんだよな」

 

兄としては一般的な兄弟と
考えは近いものがあるが
社長であるナツメとしては
シキの行動には
悩んでいる様子。


確かに注意したところで
シキが聞く耳を持つとは思えない。



「休みのところ悪かったな。
 帰って二日酔いを早く冷ましな」


「了解…」



二日酔いで会社にいる事に
気まずさを感じつつ
帰り際ヒメはナツメに
礼を言いたかった。



「あ…のさ。
 もう1つお礼言わなきゃなんだけど…」


「礼?」


「昨日の事…」


「介抱なら気にすんな」


「それもだけど
 それだけじゃなくて。
 …前秘書の事
 必要としてくれて、ありがとう」


「それは覚えていたのか…」



忘れるはずがなかった。
職場の人達が言っていた事は
胸に突き刺さるし
どうしてその秘書が
ナツメの元から離れたのか
気になり始めていたからだ。