「ブラジル━━━━━ひー! 扇風機とブラジル人って! あはははは! 拾ったの?」
「うん。頼子ちゃんに怒られるから頑なに詳細は伏せてるんだけど、とにかく今日からアルバイトに来てるの。今私と頼子ちゃんふたりがかりで英語の雇用契約書を作ってる」
新しくやってきたブラジル人は日系何世だったかで、本名はカルロス……あれ? アントニオ? カルロスは名字だったっけ? とにかくそれっぽい名前なのだけど、おじちゃんが覚えられず「ブラジル」と呼ぶのでそれがあだ名になって定着しようとしている。
出荷全般を担当するおじちゃんと組んで、主に倉庫の管理をしてもらうことになった。
ブラジルは来日して二週間ほどで日本語はほぼ話せない。
新婚さんで奥様は日本人だけど、英語でやりとりしているようだ。
従って、英語の話せない社長以外のメンバーはカタコトのローマ字英語と強引なジェスチャーで意志疎通を図っている。
もちろん、金曜日の歓迎会はブラジルのためのもの。
「『ブラジル』って! しかもブラジル人にインスタントコーヒー飲ませてるの?」
「うん。おいしそうに飲んでたよ? 粉のミルクも入れてるし」
「あはははは!」
私も気になって産地を確認したのだけど、表示には「グアテマラ、エチオピア」と書いてあった。
まあ、私たちだって中国産の爪楊枝を使ってるわけだし、それしかないのだから問答無用でインスタントコーヒーを飲ませている。
「アリガトウ」
数少ない日本語をニッコリ笑顔で言われると悪い気はしない。
しかも日系とは言ってもすっかり日本人離れしたなかなかいい顔の青年だ。
「どういたしまして」
と、こちらも笑顔で返す国際色豊かな職場となった。
「真織さんの会社って、面白いところだね」
「社長が変人なだけであとはみんな普通だよ」
「それで扇風機の方も捨てられずに済んだんだ?」
「置くところないからとりあえず応接セットに座ってる」
「あはははは! お客様!」
「雄弁は銀、沈黙は金」という言葉があるけれど、どちらかだけではダメなんだ。
相手の話に反応することも、「聞いています」と伝えることも、すべて愛情表現なのだと、直に教えられた気がする。