私が生まれた頃、地球はすでに温暖化していて、省エネは当たり前だった。
草食系や恋愛を必要としない人が増えた要因の一つが、そんな環境にあるんじゃないかと、こっそり思っている。

かく言う私も恋愛に割けるエネルギーは多くない。
ぬるい職場とは言え仕事はあるし、一人暮らしだから家事だってしなければならない。
自分の時間と、それとは別に休む時間も欲しい。
だからペースが安定していた武との付き合いには、とても満足していたのだ。
恋愛も車と一緒で、走り始めと停まる時が一番エネルギーを使うみたいだから。

急ブレーキでエネルギーを使い切った私は、もう一度走り出すのがものすごく面倒で、直とのお付き合いにはとにかく省エネを心掛けていた。
待ち合わせは私の会社の最寄り駅で、行き先も職場と自宅の間にある店。
仕事帰りだからデートのためのオシャレも必要なくて、とてもエネルギー効率がいい。

今日は途中のドラッグストアで少しお買い物をしてから行ったので、約束の時間ギリギリになってしまった。

「ごめんなさい。お待たせしました」

「ううん。五分も待ってない」

直は大抵そうであるように、今日もデニムにシャツというカジュアルな服で、何か印刷されている紙を無造作にデニムのポケットに突っ込んだ。
折り畳む瞬間、チラッと格子模様と漢字が見えたけど、それより他のことが気になった。

「今日も仕事は休み?」

「うん。昨日は仕事関係の人と飲んだから、今日は午後少し仕事しただけ」

「そうなんだ。飲み会多いね」

世の中には毎日飲む人もいるけど、職場の飲み会ってそんなに頻繁じゃないと思う。
うちの場合も、年に数回節目のときと、大きな仕事が入ったお祝いや社員に何かしらめでたいことがあった時くらいのものだ。
直の場合、仕事関係の打ち上げが多い。

「そうだね。年中何かしらのお祝い事やイベントがあるんだ」

「そういえば、直って何の━━━━━痛っ!」

帰宅時間帯にボヤボヤしていたから、小走りに駆けていく人の紙袋の角がぶつかってしまった。
出血はなく、腕に白い線が入っただけながら、ヒリヒリと痛い。

「大丈夫? 怪我はない?」

「怪我ってほどでもないけど痛い! もうっ!」

「人の流れがあって危ないから早めに移動しようか」

直に促されて少し端の方に寄る。
傷の程度を見た直も心配ないとわかったようで、ホッとした顔で聞いてきた。

「真織さん、何か食べたいものはある?」

「ハンバーグ」

昨日頼子ちゃんのお弁当に入っていたのを見てから、ずーっと食べたかったのだ。

「行きたい店がないなら俺が決めてもいい?」

「うん。おいしいところにしてね」

「はいはい」

行き先を決める時に人柄って出るように思う。
自分の行きたいところばかり押しつけられても嫌だけど、何から何までこちらに丸投げされるのも辛い。
直はいつも私の意向を聞いた上で選択肢を提示してくれるからストレスがない。
こちらに頼るくせに文句ばかり言う人だって世の中にはいるのだから、直がこういう人で、とても運が良かったと思う。