「お義母さん、ありがとうございました」

涼介以外が家庭持ちって事もあって、楽屋で軽く打ち上げをして高成の実家に帰ったあたしと高成。

「いいのよ。今日は特別な日だったんでしょう?」

そう言いながらすやすや眠る千秋を高成に預けた。
あたしの両手はすでにお義母さんからいただいた料理で手一杯だったからだ。

「またお話しにきます」
「楽しみにしてるわね。高成も、お疲れ様」

もう一度お礼を言って青山家をあとにする。

「コイツ、よく寝るな」

どうせ一日中寝てたんだろ、と頬を掴んでぷにぷにする高成。

ライブで疲れてるだろうから、と運転しているのはあたし。
これはもう決まり事みたいになってる。

家に着くと高成はソファに寝転んで胸の上に乗せて一緒に寝ていた。
それはあたしが高成の洗濯やら風呂やら準備したあとに気付いたこと。

「親子やな~」

寝顔がそっくりな親子。
鼻も唇の形も全部一緒。
優性遺伝というのは素晴らしいとつくづく思う。

しばらく眺めてるとマナーモードにしてた携帯が震えてる。
バッグから取り出すと着信は陽夏ちゃん。

「はい」
《涼ちゃん、晩ご飯一緒にしませんか?》
「いいよ。うちまだ何も準備出来てないし、高成寝てるし」
《じゃあ、よしましょうか》
「あー、いいよ。どれくらいでこれそう?」
《出る準備万端です!》
「じゃあ、夕飯一緒に作ってくれる?待ってるから」
《任せてください!じゃあ向かいますね》

携帯を切って、テーブルの上に置くと目を開けた高成。

「誰?」
「谷口家と一緒に晩ご飯」
「またかよ」

そう言うとまた体勢を少しずらして目を閉じた。

疲れてるんやと思う。
でも、ここで寝られては、はっきり言うて邪魔。

「寝るなら寝室行って。晩ご飯は起きたときに食べれるように残しておくから」

そう言うとパッチリと目を開けて不機嫌そうな顔をした。

「俺は放置?」
「放置じゃないよ。疲れてると思うから言うただけ」

拗ねたような言い方に思わず笑うと高成が腕を引っ張った。
思わず、高成の上におる千秋を潰しそうになって焦る。

「俺、疲れたんだけど」
「うん。勝手に決めてごめんな?」
「本当に思ってる?」
「うん、思ってる」
「じゃあ、キスして」
「?!」

いきなり何を言ってんのよ?!と体を引こうとしたけど、ガッチリ掴まれた腕が離れるわけもなく。

「あの、」
「早く」
「えっと、」
「ほら」

ぐぐっと腕を引かれて、諦めてキスをしようと近付いた瞬間、―――ピンポーン、とインターフォンの音と、それに反応した千秋が号泣した。

それに高成が小さく舌打ちして、あたしの唇に軽く触れるだけのキスをすると玄関へ向かった。

あたしは自分の腕の中で泣く我が子をあやしながら真っ赤になる顔を抑えることに必死になった。